2011年4月14日木曜日

(2011年4月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日本の当局は福島第一原子力発電所の事故の深刻さを表す評価尺度を2段階引き上げて最も高いレベル7としたことで、意図せず人々をミスリードし、事態が突如悪化し、世界最悪の原発事故であるチェルノブイリ並みに深刻だと思わせてしまったかもしれない。

昨日と今日で状況が変わったわけではない

福島県でM6.3の地震、震度6弱
東京電力福島第一原子力発電所、3号機建屋をとらえた航空写真(2011年4月10日撮影)〔AFPBB News
「レベル7への評価引き上げには少し驚いている」。英セントラル・ランカシャー大学のローレンス・ウィリアムズ教授(原子力安全確保が専門)は、こう話す。
「損傷した3つの原子炉や4つの使用済み燃料プールの状況に大きな変化はないし、大気中に漏れ出す放射能が突然増えたわけでもない」
オーストラリアのモナシュ大学の原子力安全確保の専門家、ジョン・プライス氏は、評価引き上げは「今日の状況が昨日より悪いという意味ではない。今回の事故が全体として、これまで考えられていたより深刻だということだ」と言う。
国際原子力機関(IAEA)は、事故の深刻度と安全性への影響を1つの数字で公衆に示すために、20年前に国際原子力事象評価尺度(INES)を 定めた。7段階の尺度はシンプルに見えるが、評価の基準は非常に複雑で、IAEAは218ページに上るハンドブックを発行している。
こうした基準に照らし、日本の原子力安全・保安院は福島の原発事故を「暫定的に」レベル7と評価すべきだと判断した。3月11日の地震と津波以降、周囲に放出された放射性物質の総量は、1986年のチェルノブイリ原発事故のおよそ10分の1だ。

チェルノブイリの方がはるかに深刻

原子力の専門家らは、チェルノブイリの放射線の影響の方がはるかに深刻だったとの見方で一致している。理由は主に2つある。
まず、チェルノブイリでは激しい爆発が核物質を上空9キロまで吹き飛ばし、ウクライナから遠く離れた場所まで放射性降下物を撒き散らした。事故か ら25年経っても、現場から2000キロ離れた北ウェールズの農家は、長命の汚染物質のために、いまだ土地利用を制限されている。

次に、日本の当局は福島の原発事故の直後に、緊急作業員と地元住民を放射線被曝から守った。英ポーツマス大学の環境物理学者、ジム・スミス氏は、 「住民を避難させ、食品の摂取禁止を発令し、ヨウ化カリウム錠剤を配布することで、日本の当局は福島原発による最も深刻な健康被害を防いだはずだ」と言 う。
「チェルノブイリでは、地元の人々は、事故後およそ48時間経つまで避難させられなかった。原子炉が燃えているのに子供たちは外で遊び、ヨウ化カ リウム錠剤も配られなかった。チェルノブイリ事故が起きてから何週間も、人々は放射性ヨウ素に高度に汚染された牛乳や葉もの野菜を食べ続けた」
福島第一原発の周辺では、短命な放射性ヨウ素131(半減期は8日間)のレベルが急速に低下しており、事故から間もない頃の10%程度に減退した。

懸念されるのは放射性セシウムの影響、欧州ではまだ移動制限も

懸念は放射性セシウム137の汚染に移っている。特に懸念されるのが、原発の北西に位置する土地の汚染だ。放射性セシウム(半減期は30年)はよ り長期に及ぶ汚染物質で、これが、チェルノブイリ事故の放射性降下物に汚染された欧州一部地域で今も移動制限が敷かれている主な理由だ。
「放射性セシウムの汚染によって、例えば食品の摂取禁止などの対策を、日本の一部地域で数十年間実施し続ける必要が出てくるかもしれない」と前出のスミス教授は言う。
チェルノブイリと異なり、福島の原子炉は海岸沿いにある。事故は空気や土地、陸水供給を汚染しただけでなく、大量の汚染水(これまで量は確認されていない)を海に放出し、海洋生物を脅かしている。最も被害を受けやすいのは、貝類や海草を含む沿岸、近海漁業だ。
福島原発はチェルノブイリ並みに深刻だとする見出しは、世界の原子力産業で働く人々をさらに身震いさせるだろう。彼らとしては、被災した原子炉で作業する日本のチームが早期に緊急事態を収束させることを祈るしかない。
そうなれば、当局は福島の原発事故を暫定的なレベル7から、より恒久的なレベル6に引き下げることができるかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿